西京子の備忘録

朝ご飯の内容から夕ご飯の内容まで、徒然なるままに

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久遠という名の少年

寡言の意思は、まるで朝霧が、カアテンが閉まるやうに、

けれど、決して私の鼓膜を刺せんせずに晴れるやうに、消滅したのでした。

しかし、ジョバンニには、それが、空気の分子に、

取り込まれてゐくやうに感じられたのでした。

次の瞬間、カンパネルラの顔が、突然の、光の入射によつて、

幾筋もの色に染められましたが、眩しくはありませんでした。

窓からは、同心円上に無限大に、もしかしたら、春も、夏も、秋も、冬も、

全てのときが、織り込まれてゐるのではないか、としか考えられない、

八色に煌めく穂をたたへた稲が、恐らくは先の太陽風に、靡いていたのでした。

その光が、窓から飛び込んできては、消へ、

飛び込んできては、車内を一瞬の興奇心に、満たすさまに、

ジョバンニは、何故か、何度も何度もここへ来たことがあるやうな、

幾度も幾度もこの輝きに包まれたことがあるやうな気がしたのでした。

「これは、そろそろ、北極点も近いのかしら」

またしても、後ろの席から、今度は女性の声がしたのでした。

その時、急に、光の筋が乱れたので、外に目を遣ると、

突風によつて、稲の実が、ポロン、ポロンと、ハアブのやうに温かひ音を立てて、

宇宙の色素と混ざり合いながら、重層の奥深くへと沈んでゐつたのでした。

それを見てゐたカンパネルラは、今までのもの悲しげな表情とは、

異なり、まるで、意を決したやうに口を開ゐたのでした。

「ねえ、ジョバンニ、僕は一体、どこに存在しているのだろう」

「君は、今、僕の目の前に居るじゃないか」

ジョバンニは、問ゐの意図が解らなかつたのでした。

「でも、僕は・・・」

カンパネルラは、まるで、息が詰まつて、これ以上喋ることが出来ない、

という風だつたのでした。

「僕たちは、今この場にいるでしょう」

ジョバンニは、反射的に、同じ言葉をまう一度、繰り返したのでした。

「もしそうだとしても、何時かは僕たちも」

車内は、まるで、みなが、二人の会話に、耳を澄ましているかのやうに、

静まりかえつていたのでした。

「カンパネルラ、全てが、消えてしまうわけではなくて、

 例え何かあったとしても、全てが、散逸してしまうわけではなくて」

ジョバンニは、カンパネルラと、沈んでゐく稲の実の河を、両方を見据へながら、

ゆつくりと自らの意識を具象化してゐたのでした。

「自分だと思っているものだけが、自分なのではなくて、

 それは気が付かないけれども、心を研ぎ澄まさないと、

 感じることは出来ないけれども、それは、僕が、

 幼いときに感じた一つの幸せかもしれないし、何時も見守ってくれている、

 両親、御先祖様、友人かもしれないけれど、そういった存在を含めて、

 僕は僕として成り立っているんだと思うな」

「・・・ジョバンニ」

カンパネルラは、またも言を止めましたが、それはどちらかというと、

先程までとは異なって、とても嬉しさうに、微笑んでいるやうに見えました。

「全てが、消えてしまうわけではなくて、絶えず固化されて、

 この世界の元素として、この世界の優しさとして、

 還元されて行くんじゃないかな、

 カンパネルラ、君は、僕の」

「次の到着駅は、北極点です」

ふと、マイクを通じて、車掌の落ち着ゐた声が、

ジョバンニの言葉を遮つたのでした。

「急がなくちゃ」

カンパネルラは、右のポケツトから、一枚の紙切れを取り出して、

しつかりと、しつかりと、ジョバンニの両手に、握りしめさせたのでした。

「ジョバンニ」



ジョバンニは、いつもの潮風で、目を覚ましました。

小屋の窓を開けたまま、眠つてしまつたやうでした。

「カンパネルラ」

ジョバンニは、はつとして、見渡しましたが、小屋の中には、

二人が家から持ち出してきた、釣り道具や、カンパネルラが拾つてきた、

空き缶が、あちこちに、散らばつてゐただけだつたのでした。

ジョバンニが、小屋から出ると、もう空には月が出て、

真つ暗でした。

だういうわけか谷の方から、時間はずれの大声が聞こへてきたので、

振り向くと、風船を被せたやうに、ボワツと明るかつたのでした。

ジョバンニは、谷へ向かつて、歩き始めましたが、

気が付くと、その右手は、固く、固く握りしめられてゐたのでした。

そこには、まるで水のやうに透き通つた、夜の暗闇にも、迷うことなく輝く、

綺麗な、綺麗な水晶が、凛として存在してゐたのでした。
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  • Author:西京子
  • ・今月23日は天皇陛下の73歳の御誕生日です。
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    ・同2日は崇仁親王殿下の91歳の御誕生日です。
    ・同9日は皇太子妃殿下の43歳の御誕生日です。
    ・同20日は彬子女王殿下の25歳の御誕生日です。
    ・同29日は佳子内親王殿下の12歳の御誕生日です。

    ・今年も早いもので十二月になりました。皆さま、ご多忙の時期とは思いますが、無理をなさりませんよう。
    ・最近はテレビを視聴していないので、今期は殆どついて行けてません(謎)

    ・現在、更新が遅れています。大変申し訳ありません。

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